当世勇者事情

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 まず言える事として、勇者は職業として異色である。  勇者になるための資格試験などは存在しない。あなたが勇者になりたいというなら、今日からでも勇者を自称すればいいのだ。  これが、他の職業ではそうはいかない。  戦士である場合、経験を積む為に大抵一度は王国の軍隊に入隊する。未経験で下っ端の軍人ではなめられること必至なので、入隊前に地元の剣士の指導を受けるのが常識だ。そうなると、結局戦士になるには十代になるかならないかから修業を始める必要がある。  魔法使いの場合。些末な用事に使う低級な魔法に関しては素人も自由に使える事になっているが、魔法使いと名乗る者が使う中級以上の魔法はそうはいかない。レベルの高い魔法は扱いに危険が伴う。よって、本格的な魔法を使うには全世界魔法連盟の筆記実技の試験を受け、資格をとる必要がある。  もし、無資格で中級以上の魔法を行使した場合、全魔連に国境を超えて違反者として追われ、捕まれば収監されたり、生涯魔法が使えなくなる呪いがかけられたり、最悪、極刑に処される。それ程、魔法使いにとって資格とは重要なものだ。  僧侶になる者は、大体、幼いころから家族そろって教区で奉仕活動をした上で、信仰に身を捧げる進路を選ぶ。成人してから宗教に目覚め僧侶になる者もいるが、その場合、すぐに冒険の旅に出ようとしては信仰心を疑われるだろうから、教会を出ずに大人しく務めに励むしかないだろう。  盗賊などは、家族代々盗賊の家系でなければギルドに入ることもできず、ギルドに入らずに盗賊活動をすればただの犯罪者として扱われる。  その他、商人、旅芸人、賢者といった職業を名乗るのも、正式な資格が必要か、または見習いから始め、ある程度の経験を積んだ上でその道の人々に認められる必要がある。  ただ、自称「楽器を演奏しない詩人」の冒険者は別だ。彼らは文系臭を漂わせているだけで、本質は勇者と変わらない。
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