当世勇者事情

7/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 ここまで話したように、出来る冒険も少なくなっている冒険者たちだが、最終的に冒険が出来なくて困るのは実は、勇者のみである。  例えば、戦士。彼らはそもそもが軍隊出身であり、冒険をしなければそちらに戻ればいい身分だ。もし、自分の国に空きが無ければ他の国で傭兵をしてもいい。人を傷つけるのは御免だというなら、一般の人相手に剣技の指導をして師範業で稼げばいい。  これは格闘家もで、一般人相手には武器を使わない分、さらに人気がある。護身術とエクササイズを両方兼ねると喧伝して生徒をとり、財を成した元冒険者の格闘家も多い。  魔法使いも、生活に困る事は無い。白魔術を使えれば、一生安泰どころか人々の尊敬まで集める。いまや人々が恐れるのは魔物より病だからだ。  黒魔法使いは、平時の場合、意外かもしれないが建設現場の爆破要員に職がある。戦時に入れば彼らが主力となる場合も多く、上手くやれば荒稼ぎできるし、更に能力が高ければ国の影の権力者だったり傀儡政権の黒幕にもなり得る。権力を求めるのに実は最適な職業が、冒険しない黒魔法使いだったりする。ただし、表舞台には立てないだろうし、恨みも相当買う事にはなるだろうが。  大した魔力がなく手先がやや器用な者だと、マジシャンを装うようなのもいる。彼らのマジックには正真正銘タネも仕掛けもない。ただ、マジックに魔法を使うのは違法である。  僧侶に関しては、冒険者を辞めた後のことなど考える必要はない。そもそも教区拡大以外の目的で冒険に出るのが異例の状態で、本来は教会にいるべき存在だ。全人類が無神論者になる気配はないし、ネットワークの広さからいっても、冒険者の中では最も安定した職業ではないだろうか。  盗賊。かれらが冒険をしていない時、何をしているか。正確には把握されていない。商人をしているだとか、義賊をしているだとかの噂は聞いた事がある。もしかしたら、悪どい金持ちから奪ったものを商って収入を得ているのかもしれない。盗賊は気さくな性格の者が多いが、実際は口が固く閉じられた世界で生きているので、彼らから冒険時以外の話を聞くことは難しい。  ただ、以前、私のパーティーにいた盗賊に、現在防犯コンサルタントをしているのが一人いる。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!