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と、玄関に足を踏み入れながら伊藤は何か違和感を感じていた。
(なんだ?なにかが・・・)
「どうした?」
伊藤が少し考え込むように眉を寄せる表情に気付き、山本が問いかける。
「いや、なんか変じゃなかったか?」
「毎度のことながら、伊藤が引っかかることに俺は何も気付いていないぞ」
まあ、そうだろうなと思いつつ、二人は二階にある厚木の部屋の前まで来る。厚木は飲み物を持っていくから先に部屋に行っていてくれと言い残し、一階のキッチンに向かっていた。
ドアには、木製のプレートに厚木の下の名前がアルファベットで刻まれている。昔となんら変わりない光景、のはずだった。
しかし、それを見た瞬間、伊藤の中で先程の違和感の正体がはっきりした。
「あ、そうか」
「なに?」部屋に入りながら山本が伊藤に訊く。
「いや、さっきの。『無かった』んだよ」
「無かった?」
「そう―――あっ、」
不意に伊藤が自分のスマホを取り出し、何かを調べ始めた。
「な、なんだよ?どうしたんだよ?」
山本の声に答えることなく、黙々とスマホをいじっていた伊藤の指が止まる。伊藤は数度小さく頷くと、顔を上げ山本に言った。
「わかったかも・・・離婚の理由」
「え!?もうわかっちゃったの?」
「でも、じゃあ、なんで・・・?」
一人ブツブツ呟く伊藤に対して、山本が問いかける。
「えー、じゃあ、厚木の言ってた『12月に落ちつく』って意味もわかる?」
「12月・・・」
そうだ、12月・・・三ヶ月後・・・あ、もしかして。
伊藤は再びスマホで何かを調べ始める。検索したサイトには、伊藤の想像した内容が書かれていた。
「でかした、山本」
「え、やっぱ12月に何かあったの?」
「いや、大事なのは12月じゃなくて、それまでの期間だったんだ」
「どういうこと?」
「そもそも―――ん?」
伊藤はスマホの画面に見つけた新しい情報に目を止める。あれ?これ、もしかして・・・。
「ちょっと置いて行くなって。説明してくれよ。厚木は何を隠してんだよ」
「ああ、もうあいつ戻ってくるだろうから後でな。とりあえず、後で俺のいないとこで厚木に『同じ人なら12月まで待たなくていいですよ』っておばさんたちに伝えるよう言ってあげて」
「は?どういうこと?」
「いいから。な?」
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