2、伊藤と山本

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 そんな人たちが離婚。それは山本じゃなくとも、結婚への憧憬の念が砕かれたとしても不思議ではないのかもしれない。    「なんでまた・・・え、ちょっと待って。じゃあ、厚木引っ越しちゃったりするの?転校とか。あ、でもどっちについて行くとかそういう話になんのかな」  「さすが伊藤だ」  抱いた疑問に対して、『さすが伊藤』という訳のわからない返しをしてきた山本を見て伊藤は気付く。  これはどうやらあのパターンだな。  「着眼点と言うか、疑問に思ってくれるところが、この後の話的に百点だよ」   「まわりくどい前置きはいいから、さっさと本題に入れ」  たまに山本は、この手の話のタネを伊藤に持ってくる。このタネというのは、自分たちの退屈な日常に転がっている小さな『謎』である。いつもどこから調達してくるのか、常にアンテナをはっているのか、それとも引き寄せやすいのか、とにかく決まって謎を拾ってくるのは山本だった。  そして、伊藤も伊藤で、退屈な毎日の中でそれを待っているところもなくはない。  「わからないんだよ」  「わからない?」  「ああ。離婚の理由が」  「そりゃあ、夫婦の事は本人たちじゃないとわからないこともあるんじゃないのか?よく知らないけど」  「いやあ、そういうことじゃなくてだな・・・そう、さっきの伊藤の疑問に答えるなら、厚木は転校も引っ越しもしない。そんで、なんだったらおじさんとおばさんも引っ越さない」  「ん?」  「相も変わらず、仲睦まじく三人の生活は続いている。そしておそらくこれからも続く」  「は?じゃあ、なんで離婚したんだよ」  「だからそれがわからないんだよ」  なるほど、今回の謎の形がぼんやり見えてきた。いや、この場合わからないことがわかっただけで、むしろ見えなくなったと言うべきか。  「そもそもお前はその話をどうやって知ったんだ?」  「俺の母ちゃんってさ、区役所勤めなんだよね」  「ああ。ん?それって・・・」  「そ。厚木の父ちゃん母ちゃんは俺の母ちゃんの勤め先に離婚届を提出したってわけだ」  それはそれは。なんとも狭い世の中である。
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