3、伊藤と厚木

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 昼休みの学校は、廊下も教室も生徒たちの話声で溢れている。  騒がしい廊下を歩きながら、伊藤は果たしてどう探ればよいものかと考えていた。隣のクラスなだけに、あまり考える時間も無い。というか、もう厚木のクラスの前に着いた。我ながらもう少し考えてから来ればよかったかと、一度引き返そうかと思ったその時、教室のドアがガラっと空いてひょろっと背の高い男が姿を現した。  「あれ、伊藤」  「お、おう」  まさかのご本人登場に少々焦ったが、こうなってしまったら、ちょうどよかったと考え任務を遂行してしまおう。  「どうしたの?」  「いや、ちょっとトイレに行くとこ」  「トイレ?うちのクラスに用があったんじゃないの?」  「いや、前を通りがかったから、厚木いるかなあって覗いただけだよ」  「なんだそれ、気持ち悪いな」  そう言って笑う厚木の様子は確かに何も変わりないように思えた。  「じゃあ、俺もトイレに行くとこだったから、連れションしちゃう?」  「そうしちゃいますか」  とりあえず、これで自然に話せる時間ができたわけだ。連れションという文化を造った諸先輩方に感謝である。    トイレに入ると、二人は男子便所特有のアノ横に立って並ぶ便器に着く。  伊藤はトイレに行く予定も無かったので、とりあえずポーズだけ取っていた。どう切り出すかも思いつかず、あまりに無難な言葉が伊藤の口をついた。  「最近どう?」  「どうって、元気だよ?」  「おじさんとおばさんも元気?」  厚木の横顔をちらっと窺う。  「うん、元気だよー」  なんの変化もなし。くそ、だめか。  「また厚木の家遊びに行かせてよ」  「うん、来て来て」  そう言いながら、厚木は体を上下に軽く揺する。マズイ、話も厚木の用も終わってしまう。何か話しを繋げなくては。  「あれだな、あっ、大変だったな。先月は」  「ん?」  「ほら、親戚の方亡くなって、葬式とかで何日か休んでたじゃん。叔父さん、だっけ?」  その瞬間、それまで両親の話が出てもなんの変化も生じなかった厚木に、小さな動揺が浮かんだことを伊藤は見逃さなかった。  え?ここ?  「そう、叔父さん。まあ、俺は大変ではなかったけど、父さんが喪主やったりで大変だったかな」  「おじさんの兄弟なの?」  
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