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「っ……、なんで」
数段下で、古川くんは青い両目を大きく見開き、その付近で両手をさまよわせていた。足元を見れば、転ぶまでには至らなかったものの何段かずり落ちたようだ。
「なんで……あ、嘘だろ!ックソ……」
目元をなでるような仕草をした後、更なる狼狽えっぷりを見せる。あちらこちらに泳いだ末のアイスブルーが、観念するように指の間から私に視軸を合わせた。
「なぁ、いつから……さっきもこれ、見たのかよ!?」
口調は乱暴だが、その表情は怒っているとか脅そうとしているというより、焦っているとか怯えているといった方が適切だった。恐る恐るといった風に指を目元から離しながら、私がいる踊り場の一段下まで上履きを踏み鳴らす勢いで上がる。どうしたというのだろう。
「保健室にいて、起きた時に気付いたけど」
気が気でないといった様子に戸惑う。顔の前にあった手をだらりと下ろし、盛大にため息をついた古川くんは深刻な顔で私を見上げた。
「あのさ。この目のこと、誰にも言わないでくれないか」
「秘密にしてって事?わかった」
了承しつつ、首を傾げた。珍しがられはすれど、不快な印象や嫌悪の対象にはならないだろう。
「別にいいけど、なんで隠したがるの?綺麗だと思うけど」
寧ろ羨ましがられたりしそうだ。けれど当事者にとっては違うらしく、「誰にも言わないでほしい。頼むから」と繰り返された。
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