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夏休みも終わりのころ。
女子トイレで女の子が泣いていた。
アキラ君が返信してくれない、無視されてる、と。
その子は私の好きな女の子だった。私よりも低いけど、高身長の女の子だった。
だから学食でアキラを見かけて、いつもより腹が立った。
アキラは昔と変わらず最低な男なのだ。
コンプレックスが消えたくせに。ちっとも進歩していない。
私をいじめたあのころの下種(げす)のまま。
それからほどなくして、アキラからメールが来たから驚いた。誰かに私のアドレスを教えてもらったのだろう。教えた相手に腹が立った。
『突然、メールを送ってごめんなさい。昔のことで話したいのですが会ってくれませんか』
敬語が奇妙だった。むしろ気持ち悪かった。
無視しても良かったけれど、私は指定された喫茶店に行ってやった。
案の定、アキラは小学生の頃のことを私に謝りだした。
何故かアキラはとても怯えていた。見たこともないオドオドとした表情で私をうかがうように見た。
小学生の頃の私を思い出した。アキラの機嫌をうかがって、息を殺すようにして身を小さくしていた私と同じ。
まるで、立場が逆転したよう。
私の心の中に嗜虐心が芽生え始めた。
そんな言葉で許されると思っているのだろうか。ふざけるな、馬鹿男。
足りない。
全然、足りない。
どうせなら土下座して謝れ。これじゃ全然足りない。
『もう、随分と昔のことなのに気にしてくれていたのね。謝ってくれるなんて思わなかった。嬉しいわ』
私は無理やり笑顔を思いっきり作ってアキラに告げた。
アキラは驚いたように私の顔を見た。
私はさっさと早くそこから立ち去りたくて仕方がなかった。昔のことは水に流したふりをしてもう二度とアキラに会いたくなかったのだ。
『これからは気にせずに付き合いましょう』
席を立ちながら、早く済ませたいばかりに通例になっている社交辞令も無意識に加えて言ってしまった。
『何かあったら私も誘ってほしいな』
そして私はアキラを残して店を出た。
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