リョウ

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アキラと外で会った時、ショッピングモールを歩いたことがあった。  その一角の靴屋で。  私は動けなくなった。  棚に置いてある、とびっきりヒールの高い真っ赤な一足のピンヒール。  どこかで見たような気がして、視線が釘づけになったのだ。  アキラはそんな私を見て、私が靴を欲しくなったと思ったのだろう。  笑って、買えば、と言った。  残念ながらその靴は私の足のサイズには合わなかった。  私は陳列棚の中から一足のピンヒールを選び出した。  私の足のサイズの、8センチ高さのシャンパンピンクのピンヒール。  試着して立つと、アキラが笑った。  その笑顔はちょうど私の目の高さにあった。  これを履いて、やっと私はアキラと目が合うのだ。  自分が小さい女の子になった気がして、私は思わず笑ってしまった。  その途端、アキラが抱き締めてきた。  私は身体が崩れそうなほどの安心感と陶酔を感じた。  私より高いアキラに感じた怖いような感情はヒールを履いてしまえば、なんなく消えた。  私はそれからアキラと出歩くときは、そのピンヒールを履いた。  答えの出ない問いを、私は自分自身に問い続けた。  私とアキラの関係はなんというものなのだろうか。  嘘から出た真、ということはあり得るのだろうか。――
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