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私はアキラに近づき、足元のアキラを目だけで見下ろした。
アキラは静かに死んでいた。
ああ、この男はもう私を抱けない。
悪い夢から覚めたようだった。
冷たく横たわった綺麗な顔をした血だらけの背の高い男。
この男が私を抱けないのなら、私にはもうそれが木偶にしか見えなかった。
なんだ。私は今までただ色欲にとらわれていただけだったのだ。
「私もあのとき思っていたわ」
私はアキラに足を伸ばし、白目をむいたアキラの顔を靴で軽く蹴った。
ごろん、と横を向いたアキラの片目にはピンヒールが見事に突き刺さっていた。
「あんたみたいな虫ケラのチビ男は死ねばいいのにって」
――――――――――
思い出したのだ。
修学旅行先のホテルの夜。
大部屋での夕食が始まった際、生理になったことに気づいた私は途中で席を立ったのだ。
鍵が閉まっていて自分の部屋に入れなかったから、あわてて夕食会場である大部屋に戻ってきたとき、
『ヒロコ、あいつ、死ねばいいのに』
襖の向こうでアキラがそういうのが聞こえた。
私は廊下に飛び出した。
すれ違った先生に、気分が悪いから部屋に戻ります、とだけ伝えて逃げるように去った。
涙が後から後から出てきて、泣きながら走った。
自分の部屋に戻りたくなくて、階段を上って違う階に行った。
泣き止むまで、そこで落ち着こうと思ったのだ。
すると、昼間、私に話しかけてきた高校生のお兄さんたちが廊下にいた。
泣いている私に気がつき、どうしたの、何故泣いてるの、 と近づいてきた。
私は泣きじゃくるだけで言葉が出なかった。
お兄さんたちは私の手を取り優しい声で、こっちにおいで、と言った。
私は泣きじゃくりながら頷いた。
そのまま、部屋に引っ張り込まれた。
怖くて声なんか出なかった。
自分より大きなお兄さんたちに囲まれて殺されるんじゃないかと思った。
押さえつけられて、早く終わればいいとずっと目を閉じていた。
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