リョウ

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部屋から廊下に放り出された私は、トイレを探した。  早くトイレに行かなきゃ、それだけを考えていた。  ようやく女子トイレに入っても、どうしていいかわからず呆けたように座り込んでいた私の前に、宿泊客のお姉さんが現れた。  とても小柄な可愛らしいお姉さんで、びっくりするような高さの真っ赤なピンヒールを履いていた。  お姉さんは私に気がつき、折れそうに歩きながら近づいてきた。  太ももが血だらけの私を見てお姉さんは誤解した。 『大変。始まっちゃったのね。私のをあげるわ』  部屋に戻って、お姉さんは自分のショーツと生理用ナプキンを貸してくれた。  濡れたおしぼりで呆然とする私の脚を拭きながら、 『大丈夫よ、スカートにも付いているけど黙っていれば誰にも分からないわ』  と優しく言った。  着替える私を、お姉さんは少しいやらしい目で見て最後に言った。 『最近の子は発育が良いのねえ。羨ましいわ。小学生のくせにそんな身体してるなんて』  ―――――――――― 「忘れていたのに」  すっかり忘れて、私は幸せだったのに。  リョウちゃんと二人で私は幸せだったのに。  私はアキラを見下ろした。  あんたのせいで思い出した。   「折角、忘れていたのに」
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