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小学生まで片時も離さず持っていたあの人形の存在は覚えていても、それがいつ俺のそばから消えたのかは覚えていないのかもしれない。
あの人形【わたしちゃん】は俺の分身だった。
姉の影響か、昔から女児向けのおもちゃに興味があった俺に、唯一買い与えられた人形わたしちゃん。
年を重ねると、自分を【わたし】と呼ぶことや、おままごとが好きなことや、ピンク色が好きなことをからかわれることが増えていった。
チビで女のような顔をしていたこともあり、いじめに近いことをされたこともある。
それでも笑って過ごせたのは、あの人形のおかげだ。
いつも悩みを聞いてくれたそれを、あの日ここに埋めてしまった。
女っぽい自分が嫌で普通になりたくて、【わたし】と呼んでいた自分を【わたしちゃん】にすべて押し付けて封じ込めたのだ。
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