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このタイムカプセルはわたしちゃんの棺だったはずだ。
信じられない話だが、あの日以来、俺は自分のことを【わたし】と呼ぶことはなくなったどころか、俺は【わたし】と言えなくなっていた。
恐らく、暗示のようなものなのだと思う。
どこかの地域では、無病息災のためにひな人形を身代わりに川に流す風習があるらしい。
それと同じで、俺は【わたし】と呼ぶ自分の身代わりにわたしちゃんを殺したのだ。
あの日、ここで【わたし】と言う俺は死んだのだろう。
ここで、俺はわたしちゃんの葬式をあげたのだ。
【わたし】と言えなくてもあまり問題なく、俺は中学に入学し、高校に入学し、大学生になった。
いつしか、【わたし】と言えないことは、すっかり忘れていた。
このことを思い出したのは、就職活動で行う面接練習がきっかけだった。
事前に用意した受け答えを言おうとしたのだが、どうしても【私は】の一言を発することができなかったのだ。
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