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俺が一番触れてほしくなかった話題に、東条は土足で遠慮もなくどうどうと踏み込んできた。
とはいえ、土足厳禁だと知らない彼を注意するのもお門違いかもしれない。
当時の俺は東条の言う通り、確かに自分のことを【私】と呼んでいた。
何度からかわれても、変えることができずに人知れず悩んでいたことを彼らは知らない。
唯一、俺の悩みを知っていたのは一体の人形【わたしちゃん】だけだ。
あの人形と共に、幼い俺の心はここに埋めたはずだった。
あの日から、自分のことを【私】と呼んだことはない。
わたしちゃんを掘り起こしに来たのは、もう一度自分のことを【私】と呼べるようになりたいからだった。
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