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「でも、社会人になったら男でも【私】って使うのも普通のことになるんだよな。――就職面接の練習で使ってるけど、なかなかなれないんだよなぁ。なんか、かっこつけてるみたいで照れくさくてさ」
そう言いながらも、きっと彼は何の躊躇もなく、立派な大人と遜色なく【私】と自分のことを呼ぶことができるのだろう。
羨ましいことに、昔から彼はそういうことについてそつなくこなすタイプの人間だった。
彼には俺の悩みなど分かるわけがない。
竹馬の友である彼との距離を感じ、掘り返した穴に視線を落とす。
ふと、銀色に光るなにかが目に留まる。
手を止めた俺を不審に思ったのか、木陰にいた佐々木が近づいてきた。
「なに? なにか見つけたの?」
穴をのぞき込んできた彼女に答えることなく、俺は掘り進めた。
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