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「うわ、お前」
今度はシブの、湖のような碧眼が大きく見開いた。
ジェシーの取り出した箱は、庶民には手に入らない、
高級煙草のものだった。
驚くシブを尻目に、ジェシーは1本取り出すと
Gパンの尻ポケットからライターを出して火をつける。
「将校がくれたんだ」
ふーっと一息吐くと、煙草の取り出し口をシブに向けた。
「ありがてぇな」
嬉しそうに1本抜いた所に火を掲げたライターが差し出される。
火に煙草を近づけシブが少し頬をすぼめると、煙草に火が点いた。
「おやじさんの形見、まだ使ってたのか」
「ああ。親父が唯一持っていた高級品だ。」
「懐かしいな…。おやじさん、俺にもいろいろ教えてくれたな。
お前ほど狩りは巧くならなかったがな。楽しかったよ。」
ガガーーーン
地響きとともに大音声。
敵軍の攻撃は、煙草1本分の思い出話もさせてはくれない。
ガラスが既に吹き飛んだ窓から
パラパラと、振動で壁のカケラが落ちて行くのが見える。
昨日、近くに着弾した砲弾の爆風で窓ガラスが吹き飛んだ。
シブは偶然助かっていた。
「無事でよかった。シブ、お前どこにいたんだ。」
「救護室で負傷兵の傷の手当てを手伝っていたんだ。命拾いしたぜ。
いつもならここで見張りだ。」
「もう間もなくだな。ここが前線になるのは。」
ジェシーは苦いものでも吐くように、煙を吐き出した。
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