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森の人々
双子のような国だった。
仲良く並んで、街並みも仲良く整然とした碁盤目状。
市街が尽きると森。
森から川が幾本か流れ、
支流があちこちに根を張るように広がっていた。
ただ違うのは、東側の国はほんの少しだけ、海に接していた。
そのほんの少しの海が
東の国に大きな利益をもたらした。
漁と交易、海底に眠る資源。
争いの理由は、どんな大義名分をでっち上げようが単純だ。
それらを西側の国と、その背後に控える大国が狙った。
ジェシーとシブは、東側の国の森で育った。
大昔からの狩猟民族の血を未だに伝える森の民の中で
二人はなかなか優秀な「鹿撃ち」だった。
天敵であるクマが居なくなり、
野放図に増えた鹿の駆除に狩人たちが駆り出され、
いつの間にか「鹿撃ちと」呼ばれることになった。
もちろん、鹿以外の獣や鳥も狩った。
獣たちは、森に、街に、さまざまな潤いをもたらした。
肉、内臓、毛皮、羽毛、骨はそのまま
糧に、薬に、衣服に、道具にかわった。
生きるために、ほんの少し、森のこどもをいただく。
そんな敬虔な気持ちでジェシーもシブも森に入り、
恵をいただいてきたのだ。
ある日、
鉄道の車掌が被るような、
それにしては縫い取りの金糸や真ん中に嵌ったバッジの眩しさが違う
重々しい帽子を被った
濃紺の長い制服を着て細い剣を腰に下げた男達が森に来た。
男達は「将校」と言うらしかった。
物知りの鹿撃ちが言った。
拙い作戦を立て、そのせいで兵隊が大勢死んでも、
兵隊をタテにして生きのびていく人種だ、と。
将校たちはやがて家族をタテにして鹿撃ちたちを原っぱに集め、
レミントンを持たせて遠くの的を狙わせた。
やがて各々配属が決まり、
ジェシーとシブは共に後方支援に回った。
ジェシーだけは時々将校に連れられ何処かへ行き、
ぐったりと疲れて帰ってきた。
帰ってきた時の姿は、いつもひどかった。
ある時はびしょ濡れ、ある時は泥だらけ、
今日のように粉塵だらけの日もあった。
将校たちはジェシーを、最小限の敬意を込め、
「ホークアイ」と渋々呼ぶようになった。
ジェシーはその名を忌み嫌った。
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