乳兄弟《ちきょうだい》

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乳兄弟《ちきょうだい》

シブが見張り番で配置についていようが、 兵舎がわりの旅宿にあてがわれた部屋で寝ていようが、 ジェシーは必ずシブの傍らで眠った。 それはジェシーの母が ジェシーを生んですぐに亡くなってからの習慣であり、 軍隊の厳しい規律と絶対服従の中に放り込まれながらも 「ホークアイ」の称号を得た男の特権でもあった。 ジェシーはシブの母親の乳をもらって育った。 一週間早く生まれたシブは自分より大きくなった、 思慮深く、優しく、頼りになる弟を誇らしく思った。 ジェシーの父は昔ながらの狩人だった。 狩りの名人であるとともに森一番の人格者だった。 人々は彼を「鹿撃ち」とは呼ばず、 ありったけの敬意をこめて「狩人」と呼んだ。 なめし皮職人であるシブの父親は、 3人目の男子として生まれたシブをこの狩人に預けた。 彼はジェシーだけでなく、 シブにも、誰にでも惜しみなく自分の持つ技術を教えた。 そのほとんどが、教わったからと言って そうたやすく会得できるものではなかったが。 狩人の一番の継承者は、喜ばしい事にジェシーだった。 自分の傍らでどんどん腕を上げていく弟を見ながら、 シブは悔しさや妬みよりも、感嘆や憧れの気持ちを抱いた。 「ほうら、みてくれよ! 俺の弟が仕留めた雄鹿の見事なことと言ったら!」 ジェシーが強く大きな獲物を仕留めると シブもジェシーとともに感謝の祈りを捧げ、 皮をはぎ、肉を骨から外して人々に分け与えた。 森は、命を獲らずには生きてはいけない哀れな私たちに、 大切な子を分けてくれるのだ。 決して、余分にとってはいけない、 糧を分けてもらったら精一杯の感謝を。 ジェシーの父の薫陶を胸に、二人は育った。
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