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逃走
あたしの名前はね、ずっと南の国の、
王女さまの名前なの
父さんたら、それだけでアメリアって名前にしたんだけど、
でもね、その王女さまったら、継母に殺されちゃったんですって。
3人はあるビルの一室に移された。
もう兵舎に戻ることはできない、と将校は告げた。
ここで、危険がせまったらすぐに無線で知らせる、
オマエと、とシブを指し、オマエだ、とアメリアを指した。
砲弾で外壁が崩れ落ち、ガラス窓の吹き飛んだビルに居ても
アメリアは明るく、楽し気にさえずる。
なぜこんなに能天気なのかは分からなかったけれど、
ジェシーもシブもアメリアのお陰で日に一度は笑う事が出来たし、
気持ちが和んだ。
食事は3人分運ばれたが、
ある時期からジェシーは半分アメリアにやり、
シブにもアメリアに分けてやるよう促した。
相変わらず「ホークアイ」ジェシーは将校に呼ばれて
部屋を出て行き、ずぶ濡れになったり、ホコリだらけになって
暗い、疲れた顔をして帰って来た。
ある日、ジェシーがいつもより酷く疲れた、
暗い顔をして部屋に入って来た。
悲しそうな辛そうな目をしていた。
「どうした兄弟…。お前、いつもより酷い顔してるぞ」
ジェシーは無線機の載っている粗末な机の引き出しを開け
紙とペンを取り出し壁に紙を押し付け書いた。
「声を出すな。
盗聴されている。無線機は盗聴器を兼ねている。
兄弟、お前のおとっつぁん、おっかさんが死んだ。
おれもおっかさんを喪ったことになる。
もう3日も前だ。
将校たちの噂話を偶然聞いた。
お前の兄弟もどこにいるか分からない。
空爆が始まっている。」
ここまで書いて、
ジェシーは自分の肩越しに文字を読んでいたシブを見た。
両手で鼻から口まで覆い、見開いた美しい青い目から
涙が次々こぼれてくる。
声を殺しているからか、腕が震えて来た。
アメリアは声を殺して泣きながら
後ろからシブを抱いてやる。
ジェシーは続けた。
「ここを、出よう。逃げるんだ」
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