つり橋の向こう

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つり橋の向こう

「この先につり橋がある。渡ってしまえば、中立地帯だ。 戦争地域に入って働く医療チームも来ていると聞いた。 そこを渡って、少し滞在して体を休めたらどこかへ逃げよう。」 少しひきつった顔でシブがうなづく。 アメリアはシブの背中に隠れるように立ち、 顔だけ出してうなづく。 ジェシーは寡黙だった。 そして寡黙な者は口が堅いと皆思う。 ジェシーに気を許したのか、 将校たちはまるでジェシーが居ないものの様に 機密に関する噂話を開陳した。 彼らの井戸端会議のお陰で逃げる算段が早く整い、 この時ばかりはジェシーは「ホークアイ」の称号に感謝した。 ジェシーとシブは 倉庫から盗み出したレミントンを手に、腰にアーマライトを携えた。 シブはアメリアが持っていた銃弾の入った袋をもってやる。 森の獣道では手を引いてやる。 アメリアも素直に従う。 乳兄弟たちは、 アメリアは銃弾よりも大切なものを持っている事に気づいていた。 「アメリアは身籠ってるぞ。」 ある時アメリアが水を汲みに行くと、ジェシーが言った。 「そうじゃないかと思っていた」 うなづくシブ。 「知ってたのか」 「兄弟、お前の態度だ。(いた)わり方が普通じゃなかった。 でも、アメリアが好きだっていう感じでもないし…。」 「結婚したばかりで、夫は兵隊にとられ死んだそうだ。」 「そうか…。」 「必ずつり橋の向こうに連れて行ってやろう。 俺はホークアイなんて呼ばれてるが、 何をやっているか、わかるよな?兄弟」 「ああ…」 心根の優しいジェシー。 自分達が生きるために糧をいただくのだと 言い聞かせ、鹿を撃つジェシー。 そんなお前がやらされているのは、 手を汚したくない奴らにせっつかれ、 指示された場所に潜み、標的の脳天に弾を打ち込むこと。 お前の卓越した技は、そんなことに使うためじゃない。 シブはうつむき黙り込む。 将校たちがジェシーにさせているのは、 ジェシーが一番やりたくない、 シブが一番ジェシーにさせたくない事だった。 「今度は命を守るんだ。 こんな愉快な仕事はないだろ?」 ジェシーが微笑んだ。温かい、いかにも嬉しそうな笑顔だった。 微笑みながら、ジェシーの目には涙があふれていた。
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