第一話 ユートピアにて

2/11
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/116ページ
 彼は長年勤めてきた会社で些細なミスを犯したため解雇された。そのため今職業安定所、所謂(いわゆる)ハローワークへと訪れていた。  受付を済ませ自分の順番を待つ間、人間専用の待合室にある座り心地のよいソファに腰を掛けている。広々とした待合室には、まだ物珍しさの残る最新型の立体モニターが据え付けられていた。最新の機械が映し出す華やかなライブ映像が、控え室をライブ会場へと変えている。  ステージ上で盛んに飛び跳ねるダンサーたちが見事なユニゾンを披露している。熱気がこもる映像は見る者の高揚感を刺激し、多幸感を与えている。そうAIによってプログラムされているのだ。ダンサーの容姿から仕草、性格まで人間の好む人格を合成し与えられた彼女たちは、ヴァーチャルアイドルの枠を超え人々の理想の女神となっている。背景の更に後方の、相談している先客たちが肩を落とす後姿が透けて見える。  高度な進歩を遂げた科学によって生み出されたアンドロイドは高額であるが、人間の教育と社会保障費に比べれば、日々生産され性能向上を続けるアンドロイドのリースなら、税金の控除さえ受けられる。ロボットに対し、人間はあまりにも脆弱すぎた。長い年月とコストを掛け教育を施しても、アンドロイド並の仕事ができる人間は一握りしかいないのである。従って、コストパフォーマンスに劣る人間は、資本主義経済のルールによって自然淘汰され、活躍できる職種は最早限られている。人間を雇う物好きな経営者など、余程の慈善家か懐古主義者くらいしかいないのだ。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!