板書

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 黒板の文字を残らず書き写し、内容の酷さに胸苦しくなりながらも、とりあえずやることはやったという安堵感に一息ついていたら、突如クラス内から悲鳴が上がった。  いじめ主犯が自分席でのけ反り、苦しげに身悶える。その姿がゆっくりと消滅していく。  咄嗟に黒板を窺うと、さっきまでそこに記されていた文字は総て消えていた。  まさか、黒板の文字が消えた時、内容を書き写してなかった奴は一緒に消えるのか?  クラス内を見回せば、さっきは散々ブーイングを上げていたのに、主犯が席に引きずり戻されるのを見て怖気づいたのか、残りのいじめ加担連中はノートに向かっていた。  黒板の内容をノートに写さなかったのは主犯だけ。それが俺の考えの信憑性を高める。  何があっても黒板の文字をノートに書き写さないと。  クラス中が同じことを思ったらしく、新たな文章が浮かび上がると同時に鉛筆やシャーペンの音が室内に満ちた。それに数人ばかりの泣き言が混ざる。 「何でだよ? もう消えるって、嘘だろ? まだ全部写せてねーーよ!」  ぼやいているのはいじめに加担していた連中だった。でも彼らの言葉とは裏腹に、黒板の文字は現れ続けている。  もしや、人によって黒板の文章が消えてしまう時間に差があるのか? 奴らはいじめに加わっていたから、とても書き写せない速度で黒板の文字が消えるのか? 「ぎゃぁぁぁぁ!!」  いくつもの悲鳴が響き、数人の生徒がいじめ主犯同様の状態になり、消えていく。けれどそれでも黒板には新たな文章がまた浮かぶ。そして、はっきりといじめに加担していた訳ではないが、時に一緒にからかうような真似をした生徒が、ノートに文字を写し切れずに消えていく。  いじめをしていたのはクラスの数人。でも、クラス全員で見て見ぬフリをした。積極的に庇うことも助けることもせずにいた。  ほぼ新品だったノートはもう半分くらい埋まっているが、まだまだ怨嗟に満ちた文章は黒板に浮かび続けている。  クラスメイトの数もかなり減った。…いや、自分を含めて、最後まで残ることのできる奴などいるのだろうか。いたとして、こうまで罪悪感を煽られた気持ちで、いったいどんな意見を書き込めるというのだろう。  カリカリカリカリ。ノートに文章を写す音だけが教室内に響く。…この音はいつ鳴りやむのだろう。 板書…完
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