プロローグ 現実から逃げ切る

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プロローグ 現実から逃げ切る

 わしは今猛烈に腹が立ってビールをガブガブ飲んどる。おいよく聞けよ?わしは中卒で酒を飲むこと意外なんの取り柄もないただのオッサンや。若いときはヤンチャもしてきたけど〈色々あって〉今はなんとか家の近所にある小さい町工場で働いとる。  この会社に入る直前直後のわしは平々凡々と健康に生きてさえいられれば、それで幸せなんやという価値観やった。〈色々あって〉そんな考え方やったんや。  ほんの数ヵ月前まで不眠症で毎日3時間ぐらいしか寝れん状態で仕事してた。一睡も出来んと出勤したこともある。寝れんのは地獄やった。体が重くてな、ネガティブなことしか考えられへんのや。それが仕事にも表れてしもてミスはするし勤務態度が悪いって入社して間もない頃は先輩にイジメられてたんや。寝られへんようになった原因も〈色々あって〉  そう、わしの人生色々あったんや・・・・・・  わしは個性が強すぎてな、どこにも受け皿がない。強いて、このあるがままのわしを受け入れてくれそうなとこを挙げるなら西成の寂れた商店街にある中国人スナックか精神病院ぐらいやろう。いや、踊るほうのクラブは包丁を振り回したりして出禁を食らったけど、あそこはこんなわしを受け入れてくれたような気がする。少なくてもライブしてる時だけは。  そうや、わしがあるがままに生きる道は音楽にしかない。周りはもうオッサンやのにそろそろ落ち着きやとか言う。やかましい洗脳してくんな。幸せに育ったぼっちゃんには、わしのことが解らんねや。  現実逃避?上等やオッサンの本気を見くびるなよ。現実から逃げ切ったる。それで日本一のラッパーになって好き勝手に生きるんや。それを認めさせる為に全力で努力せなあかん。  今日で酒はやめじゃ!
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