わたしは彼に削られてしまいたい

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「ぼくのせいで、やせた?」  彼はわたしの髪に触れながら聞き返した。  毛先に彼だけを感じる神経があるよう。 「やせてない」  じんじん来るのに我慢して答えると、彼は首をかしげた。  やせるのと削れるのはちょっと違う。 「どう違うの?」  彼は削り取ったわたしの部分から思考を読み取って聞いた。  やせるのは無限遠でゼロに触れる漸近線で、削れるのは近々ゼロに等しくなる階段のよう。  わたしも思考で答えた。 「さすが理系」 「先生に、なるんだもん」  理工学部に女学生は少ない。  その中で教員免許取得コースを選択している学生はもっと少ない。  自然、友だちも少ない。  身体の局所が徐々に削れてきたわたしを見て、数少ない友だちはどこか悪いのと聞く。
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