わたしは彼に削られてしまいたい

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わたしは彼に削られてしまいたい

 彼はいつもわたしのことをかじる。  どうしてかじるのかと聞くと、 「げっ歯類だから」  なめらかに言う。  声も吐息も、毛先の触れる感触も、ひどく心地よい。 「げっ歯類ってなに?」  たまらずに彼にもたれかかると、 「歯がかゆくてたまらない」  そう言って、またかじる。左の耳の下。 「かゆいなら、神経、抜いたら」  彼の歯のまろやかさにぞくぞくしながら、わたしは途切れ途切れに言った。 「いやだよ、恐ろしい」  ちっとも恐ろしくなんかなさそうに、彼はわたしを削り続けた。 「わたしが削れ切って、いなくなっちゃうのは恐ろしくないの?」  そうたずねると、彼はようやくかじるのをやめた。  わたしの身体をまじまじと見る。  かじられるより、もっと恥ずかしい。
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