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 以前の自分もこの剣に宿るような強い思念を宿していたのだろうかと。  操られるだけの自分だったが、操るに利用されていたのはこれに近い怨念だった。  自分が襲い命を奪った彼らに向けたものではなく……。  自らを攫い、洗脳した者達に対する強烈な怒り。それを原動力に言いなりにされていた。  怒りで思念が生まれるなら、殺された者の思念の矛先は自分になるだろう。  それだけならまだ構わない。  最後は殺しの罪悪から目を逸らし、彼らを見限り寝返ったのだ。多少の仕打ちは受け入れてやる覚悟がある。  だが。 「……目を離してしまった俺達の責任とはいえ」  どう巡り巡ろうが、関係の無い者を苦しめるのは許される事ではない。  まるで、忘れようとしていた過去が自分の足を掴んでいるかのようだった。  今一度、向き合う必要があるのかもしれない。  しかし、その怨念を利用されていたせいか、こうして触れると判断出来るのはとんだ皮肉ではあるが。 「……思念、ですか」  随分とオカルト染みている結論だと感じているだろう。けれども、院長からすればかつて身を持って感じさせられた事である。 「強い思念は錬金術や占いなどでも使われる。お前はそういった物は信じなさそうだが、有り得ない事じゃない」  遠い感覚では伝わりにくい。  身近でどこにでもある例をとると通じやすくはなる。 「確かに……それらを使う生業の方はいますね。成る程」  今回の反省点である。  機族であるラプレの正確さを過信し過ぎていた。突き詰めるなら、それを超えてしまったイレギュラーというわけでもあるが、子供の行動など法則の通じない物ばかりである。枠に嵌めるものではなかった。  今後、子供が遊ぶ範囲に制限を設ける必要があるだろう。  それもまあ、話し合い次第ではあるが。 「しかし、壊すのですか?」  不思議とラプレは食い下がろうとする。 「……世界がもうすでに創生された後、これ以上何を作る。それに俺達は学者じゃない。必要なのは過去を掘り下げる事ではなく、未来に種を蒔く事だ。そしてだ」  いつか誓った事だった。  自分でも何かを残そうと。 「この剣は何かを生む所か」  院長は雑に剣を放り投げる。 「子供の命を、脅かそうとしていただろう?」  言葉と同時に無言で放たれる光線。  同意は発声ではなく炸裂音で奏でられた。
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