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存在の無い虚無。
その色から受ける印象は恐怖と呪いの意味の強い、一点の闇色。
しかし、気の取り方はそうではなく、全く反対だった。
恐れる所か落ち着いており、それ以上に安らいでいた。
一体どうしたのだろうと考え始めた時である。
意識が上下に揺れ、地面の方へと垂れ下がっていくのを感じた。
「ー―っ」
まだぼんやりしており、目に入る光に今はどこか痛みを覚える。
「……」
前に意識があった頃、日は確か中天のあたりのはずだった。
それが現在、橙色に移り変わりつつある。ぼろ屋根の下で日差しから隠れていた顔に、漏れた光がうっすらと当たり始めている。
「……うたた寝か」
まるで母親が頭を撫でるような優しい仕草で風が頬を沿う。
「……ふう」
太ももに感じる体温と、それに伴う僅かな重み。
その感触は以前と違い、煩わしさを感じる事も無くなった。今ではそれに愛おしさすら湧き始めた自分を、どこか不思議に思っている程だ。
体に触れる感触はその二つ。しかし、それは彼の目覚めの要因とは異なっていた。
ロッキングチェアに腰掛け、庭で遊ぶ孤児達の様子を見る彼の顔を再び、風が通っていく。
「……これではどこまで読んでやったか分からないな」
どうせ目が覚めるなら、風が来る前ならば良かったのに。
人生とはままならない物だと常々思いを馳せる。
聞かせていた絵本の頁がぱらぱらと、忍び足のような音を立てて捲れていく。
ふとももに跨り寝息を立てるそれは、捲れる音には意にも返さず、ゆっくりと平穏と自分の眠りを享受していた。
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