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「……俺がうたた寝などとはな」  本の捲れる音に気付けないようでは、自分にいた世界では生きていけはしなかった。  相手を殺す機会を伺い続ける状況。  反対に、相手から狙われ続ける状況。  幼い頃誘拐され、生と死の極限状態に長きに渡り身を置いてたため、僅かな音や動きに自然と体が反応する鋭敏な感覚が身に付いていた。  人を殺すには便利な物であるが、生業から身を洗った今となっては、眠りの妨げなだけの邪魔な特技である。  今の環境に慣れてきたとはいえ、それでもうたた寝など考えられなかった。  任務中に居眠りなどあってはならない。そんなものをしていれば、まともに仕事が務まらない。自分を追い込んで突き詰め、それでも押し込んでようやく……かつての仕事に手を染めていた。  安堵感。  知らない物と思っていたが、今となっては違うと分かる。  ただ単に……自分は忘れていただけなのだと。 「ラプレ」 「お呼びですか院長」  彼が声を上げると、どこかしらか無機質な瞳が目立つ、小柄な少女が姿を見せた。 「毛布を持ってきてくれ。このままでは風邪を引く」 「了解しました」  少女の返答はいつも無駄なく、短い。  味気無いと言えばその通りなのだが、機族の身にそれを言うのは野暮だろう。 間髪入れずに担いできた、少しくたびれた毛布を、院長と呼ばれた男が座っていた椅子で眠る少女に被せてやった。
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