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「彼女は私の前では寝付きが悪いはずなのですが」  寝かしつけた後、無機質な少女・ラプレは院長と呼ばれる男に話しかけた。 「俺に絵本を読んでくれとせがむ時は、大体すぐに寝てしまうぞ。おかげで、ほとんど絵本が先に進まない。学びはあまり向いていない子なのかもな」 「個人の成長志向として記録しておきます。それにしても」  眠る少女を脇に見つつ、二人は会話を続ける。 「……棘が無くなった気がします院長」  ラプレにそう言われ、顔を僅かに顰める。嫌悪ではなく、入り込んだ照れを隠すため。 「否定はせん」 「最初マスターの提案した孤児院経営に嫌悪感を示し、孤児院が設立した後も日がな一日読書以外興味を示さなかった貴方とは大違いだと……」  まるで誰かがぼやいていたような口ぶり。  ラプレは記録が得意なのだ。どうでもいい事をいつだって記録している。  隠していてもすぐ分かる。誰が言ったかなど、誰かなど、一人しかいないのだ。 「ふん。どうせ、あのいけ好かないちゃらんぽらんの魔女が言っていたんだろう」  魔女とは孤児院にたまにやってくる年齢不詳のおねーさん(自称)である。  本名と魔女ルックの怪しい美女(?)という事以外、何も分かってはいない。年齢に突っ込んだ時に言い知れぬプレッシャーを感じたため、年の事はそれ以降一度も聞いていない。 「否定はしません」  鸚鵡返しを覚えたようだ。 「……全く俺の事をどう思っているんだ。あれだけせがまれれば、読まざる負えなくなるのは火を見るより分かりきっているだろう」 「子供は何にでも興味を持ちますから。一日中日陰で本ばかり読んでいる怪しそうな男を放ってはおかないと思います。……警戒の意味も込めて」  味気無い……という感想は撤回するべきかも知れない。 このラプレも孤児院で世話をし始めてからどことなく感情の色が多彩になってきている。 「まあ、悪い事ではないがな」  孤児院の運営をラプレと呼ばれた少女にまかせ自分はのんびり読書……とはいかなかった。  ラプレに孤児院の院長と挨拶されたのがまずかった。  子供達の興味を引くには十分すぎる肩書きだった。
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