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カンタくん、鬼になってー
保育園で迎えを待つ時間、僕らは園庭でよく鬼ごっこをした。
迎えの遅いメンバーはいつも決まっていて、僕以外みんな女子。
いいよー
気前よく鬼になり、キャーキャー逃げる女子たちの後ろを追いかけ回していたら、先生がクスクス笑っている。
先生もやる?
僕の問いを最後まで聞かず先生は走り出した。
慌てて僕も園庭を抜け出すとモノクロの広い砂浜。束ねた長い髪を揺らして走る一人の女が向こうにいる。
先生、じゃないのか。じゃあ誰?
我にかえって立ちすくむと、うす紅の頬が振り向いて誘う。
捕まえて……
リズミカルに波打つ長い髪が、縦に揺れて手招きする。千里浜のどこまでも真っ直ぐ続く砂浜を、僕はもう一度駆け出した。
笑い声までスローモーション、陸上部の僕がそのスピードに追いつけないのはなぜ。湿った砂浜に裸足がめり込み、思わず手を伸ばす。
待って……もう少しなのに、あと少し……もう少し……
「おい、カンタ。寝てんじゃねーよ。緊張しろ」
デカい木村のデカい声で目を覚まし、テントの外に這い出てみる。
雨?
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