目が覚めると、そこには

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ついさっきまで明るく照らされていたはずなのに、見慣れた競技場が翳っている。音もなく降る霧雨のせいで、モノクロの夢の続きみたいな気もした。 志水市中学校新人陸上競技大会、二日目。ここは千里浜ではなく、市営陸上競技場だ。 開場前からミーティング、そのあとのテント設営がひと段落し、ついうとうとしてしまっていた。朝5時起きなんて慣れてないし、昨夜もなかなか眠れなかったんだ。 「ちゃんと緊張してるよ」 朝ごはん用の包みを開き、おにぎりにかぶりつく。トラック脇の芝生からまばらな客席を見上げた。たった今ぶるっと武者震いがしたのはきっと、霧雨のせいだ。 「カンタ、今日は泣くなよ」 通り過ぎる高山の、ふざけた口元を睨む。 うっぜー。 水筒の水をゴクリと流し込むと、高山と真逆の客席へ軽くホップしながら向かった。 僕だって昨日の110mH(ハードル)は初めて決勝まで進んだんだよ。 予選は自己ベストだったし、タイムは1、2年合わせて5位につけている。 決勝絶対、いけるって。 女子の決勝が終わってハードルの高さがガシャンガシャンと二目盛高く上げられたら、男の番。否が応でも気合いが入った。     
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