目が覚めると、そこには

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今日は見学かと、残された僕らはヘラヘラ笑い、士気を急降下させていく。グラウンド0まで墜落寸前に顧問が連れてきたのは、午後からのレース、3000m競歩という、よりによって短距離100mから程遠い種目にエントリーしている細川だ。気のいい細川はニコニコしている。本人、意外と嬉しそうなのが救いだ。 「参加することに意義がある」 走順は変更。中田先輩、堀、細川、そしてアンカー僕の即席チームは、顧問が上手いこと言い訳を用意してくれたおかげで怖いもの無しとなり、これがなんとギリ決勝に残ってしまっていた。ラ…ラッキー? 霧雨は続き、観客席にちらほらと傘が開き始めていた。 * 細川の3000ウォークが終盤。先頭の選手にラスト一周の鐘が鳴る。 入部早々競歩特有のフォームを掴んだ細川は、レースも出だし好調だったが、試合慣れした2年生選手にぬるり、ぬるりと抜かされる。 短距離走者の、あの怒涛の疾走感とは対照的。追い越される瞬間が、ぬるりと撫でられているようにしか見えてこない。 細川、頼む、もういいから走ってくれ、と言いたくなるほど競歩には忍耐が必要だ。もちろんそんなことすれば一発で失格、僕向きじゃないんだなと腕を組んでウンウン頷く。 力を出し切った細川は5位でゴールに倒れ込んだ。二年に混じって大健闘じゃないか。観客席で弁当をかきこみながら堀と目で会話した。 「で、リレーの決勝このあとだぞ? 細川には酷じゃね?」 「ありゃ足ガクガクだ。無理だろな」 その隙にヒマな木村が僕の冷却スプレーをかしゃかしゃ振っている。     
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