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「勝手に使うなよ」
「いいや、カンタの唐揚げが捻挫している」
「は? ふざけんな、唐揚げが捻挫するか」
大事な弁当にスプレー噴射されるのを必死で阻止していると、帰ったはずの藤堂先輩がちゃっかり戻ってきた。
モノクロの空にかざしたツルツル真っ赤なスパイクが、雨に濡れてさらに艶を増す。眩しくて僕らは思わず拍手した。
*
トラック脇の芝生にバッグを置く。決勝前の緊張感をリレーメンバー4人で雑談してやり過ごしていた。引退した3年の先輩が来てたぞ、とか、明誠のイバンはバケモンだ、とか、大越が砲丸ぶっつけ本番で入賞、とか。
その時アナウンスが耳に入った。
「次のトラック競技、1、2年共通男子400mリレーの決勝開始は7分後となります。選手のみなさんは雨に濡れない場所で待機してください」
屋根の下に逃げるなんて走る前から負けたも同然。事実、見回しても誰一人避難する気配はなく、雨に止んでほしいと願う空気すらなかった。
みんな、スタートだけを待つ。
やがて4人は走順に分かれ、他校と合流。4箇所のスタート地点にそれぞれ誘導されていく。
「カンタ。アンカーは任せろ」
藤堂先輩は僕の肩を叩き、振り向きもせず100m先のスタート地点へ向かった。
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