目が覚めると、そこには

8/13
前へ
/13ページ
次へ
霧雨は凄んでいる。じっとしてるとこの重い湿度に潰されそうで、軽くジャンプした。それでも手足が本当に自分のものなのかおぼつかない。 肩を大きく回し腕を伸ばす。両腕を振っては身体に巻きつけたり、僕は僕を確かめるのに躍起となった。いつもは目立つのがあれで、あんまあからさまには動かないんだった。 「ファイトー!」 たまに女子の歓声が座席から湿ったグランドを突き抜けていく。 これから始まる勝ち目のない勝負。先生、本当に参加することが意義なのか? 新人戦の晴れ舞台は晴れてねーし、雨だし。僕はハードルで派手に転ぶし、藤堂先輩だって。 テイクオーバーゾーンの入り口に立ち、スタートダッシュをイメージして軽く慣らす。 リレーのバトンパスを行う区間、テイクオーバーゾーンは30m。極端な話、力尽きた第一走者のバトンを90m地点でもぎ取って第二走者が110m走るのもゾーン内ならアリだ。 ただしゾーンの外でバトンを渡すと容赦なく失格が待っている。 失格のトラップはあちこちに仕掛けてある。たった一度のフライングでレッド。リレーのスタートでしくじってみろ、チーム全体に迷惑をかける。そういうのが苦手で個人競技の陸上を選んだのに、まさかまさかのチームプレイやらされるなんてな。 アンカーは任せろ、か。 先輩かっけーよ。スパイクのピン、ミスったのも帳消しだ。     
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加