第1章

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『恋』 ――― 恋とは時に甘く、時に酸っぱいモノである。――― 誰かの言葉……。 でも、的を射ていると思う。 私も例外ではなかった。 私の『恋』は、こんなにも身近にあったのだ。 未だ桜の花が残る4月。 真新しい制服に胸を膨らませていた時だった。 桜の木の下にいた『彼』に、吸い込まれるように時が止まってしまったのだった。 高鳴る鼓動も、上気したほほも、息をつくことすら忘れるその光景は生涯忘れることはないだろうと思う。 彼は一心に本を読んでそこに立っていた。 そう、立っていただけなのに私の全てを奪っていったのだ。 ほんの数秒? ううん、何時間? わからない時間の中で『彼』は、人ごみの中に消えていった。 名前も知らない、話したことも無い『彼』。 その彼に私は後々再会することとなる。 そう、これが運命というモノなのだろう。 憧れた恋人つなぎの散歩、ハグ、キスなどの邪な考えなど微塵もなかった。 ただ息が苦しく胸が締め付けられるような……そんな感覚。 これが『恋』だと気付くのには時間がかかった。 初めての事で、『恋』と言うモノがどういうモノかが分からなかったからだと思う。 この『恋』は、日に日に私の心を蝕んで行った。 『彼』を忘れるどころか、気になって仕方がない。 そして運命の時はやってきた。 『彼』の名前がわかったの。 初は緊張のあまり声すら出せなかった。 それでも毎日通うようになり、少しづつ打ち解けていった。 軽い冗談のつもりで告白したら、彼は真剣に考えてくれた。 とっても嬉しかった。心に刺さった杭が抜かれる思いだった。 それからは、まるで世界がバラ色に染まったようなふわふわした気分だった。 友達よりも『彼』を優先するようになり、気づけば友人と呼べる人は一握りしかいなくなっていた。 それでも『彼』がいてくれれば満足だった。 時にはぶつかることもあるけれど、やっぱり私は『彼』が好き。 この気持ちは、あの青空に浮かぶ雲よりも高いに違いない。 『恋』をすることは、人生を左右するくらいの出来事だったんだと私は思う。 『恋』がいずれ『愛』に代わるとき、それは大人の階段を上っていった先にあるのだと思う。 『恋』とは縁で結ばれた運命の出会いであり、目に見えないけどそこにあるモノだと私は思う。 私はこの『恋』を『愛』に育てたいと思う。
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