プロローグ 〜明日美〜

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プロローグ 〜明日美〜

 わたしは、真っ白い霧の中にいた。  誰も……いないの……?  静寂に包まれたその場所で、わたしは出せるか自信のなかったその声を、なんとか出そうと試みる。  あ……あ、声は出た。  でも、その声は自分の声のはずなのになぜだかうまく聞き取れなくて、自分の声じゃないみたいだ。わたしの声が霧の中で反響しあって、いろんな方向へ分散してるようだった。  ひょっとしてここは、夢の中?  そんなことを考えていたら、いつの間にかわたしの目の前に、少女がすっと現れた。年齢はわたしと同じ年くらい……のような気がする。背はわたしよりちょっと高いくらいだ。突然目の前に現れたので、はっと驚いた。  誰だろう? なんだか懐かしい気持ちで、わたしはその女の子を見ていた。  でも、何かを思い出そうとすればするほど、その脳の活動をなにかに妨害され、この少女が誰なのか、結局どうしても出てこなかった。 「ねぇ。あなたは誰?」  長くすらっと伸びた黒い髪を揺らせながら、そのつぶらな瞳で少女はなにかを訴えようとしているようだ。でも、その訴えがなんなのか、この少女は本当にわたしにその訴えを伝えようとする気はあるのか、わたしには全然わからない。  すると少女は笑いながらわたしの首にすっと手を伸ばした。 「うぐっ…………」  苦しい…………そのはずなんだけど…… 「どう、苦しい?」 「ちょっ、ちょっと! わ、わたしを、殺したいの?」  実は、息は苦しくなかったんだ。わたしは首を締め付けてくる少女の手を抑えながら、少しだけ抵抗してみる。とは言っても、どうしてだか少女からは殺意を感じないし、このまま締め付けられていてもわたしは殺されることはないんじゃないかって、そんな気がした。  ただ、胸が苦しい。その少女の感情だけがわたしを襲いかかってくる。  なんだろう、この感情は……。全てを否定しようとするような、そんなものを感じる。  そうだ。少女から伝わってくるのは、殺意ではなく、憎悪―― 「殺せるわけないじゃん。だってここ、夢の中だよ。」  ……何を言っているの? 「わ、わたしに何か恨みでもあるわけ?」 「ふふふっ。ただ悔しいだけだよ。」  すると、少女はわたしの首からぱっと手を離した。わたしの呼吸は小刻みではあるものの、少しずつ回復することができた。息苦しいわけではなかったはずなのに、なぜか息はしっかり止められていたような感覚だった。 「悔しい……って、何が?」  すると少女はくすっと笑った。その表情は、なんとも寂しそうな感じがする。  なんでだろう?  そして、その少女はまた、すっと消えていった。
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