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ハインリッヒ
それは、暑い暑い日のことだった。
いや、今だからそう思うのかもしれない。
そのことについて考えるのは後にしよう。
少女は何者だったのか・・・・・・
それが気になっているんだ。
そう思わざるを得ないことが起きた日の話だ。
―――――――――――――――――
「ねぇ、知ってる?」
中学校三階の教室で放課後、少女にそう問われた。
不思議な雰囲気を、その少女は纏っていた。
なんと言えばいいのかわからないが、少女を見ているとノスタルジックな、感傷的な気持ちになる。
「何のことかな?」
「ハインリッヒの法則」
聞いたことのない法則だ。授業で習った記憶は無い。
「知らないなぁ。よかったら教えてよ」
「一件の大きな事故や災害は、三百のヒヤリ、ハットする出来事と、二十九件の軽い事故が起こった上で発生するのよ」
少女は自分の後ろで両手を組み、演技がかった口調そう言いながら、顔をずいっと近づけてくる。
「へぇ、それは知らなかった」
しかしそう考えると、結構な割合で大きな事故が起きているのだと思った。
「でもね、人や機械の不安全状態が原因の災害は九十八パーセント予防できるものなのよ」
「その防いだ分大きな災害や事故も減るの?」
「そうだよ」
確かに、と思った。
風が吹けば桶屋が儲かるとことわざがあるように、大きな事故も小さな要因が重なって起きているのだ。
自分も気を付けなければ、と思っていると少女が急に走りだした。
教室を出て階段を駆け下りる音がする。
そしてダンッ! という音が響いた。
「おい!どうしたんだ!」
階下行った少女に聞こえるように大声で叫びながら後を追うように階段を下りていく。
「さんびゃくにじゅうきゅうさんびゃくにじゅうきゅう・・・・・・」
折り返しまで来ると、二階に下りたところで少女が座り込んでいるのが見えた。
そして何かを繰り返し繰り返しつぶやいていた。
「一体どうしたんだ・・・・・・」
「ごめんね」
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