2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
あの人と会うことはできなかった。
それでも立ち去ることはできなかった。
あの人に会えないわたしに、未来はなかった。
わたしは波音が響く浜辺の岩に腰かけ、祈りを捧げた。
朝に夕に唱える祈りの歌を、声には出さずに。
目は砂浜を見つめていたし、頭の中であの人のことでいっぱいだった。
あの人に会えなかったらという不安で胸が押し潰されそうだった。
それでも、しばらくすると、心はいつものところへおりていった。
深い海の底のように、閉ざされた静かなところへと。
どんなときも、祈りはわたしの心をおだやかにしてくれた。
寄せては返す波のように繰り返してきた祈りの力は、こんなときでさえわたしの心をおだやかにしてくれた。
あまりにも居心地がよすぎて、なにもかもすべてを忘れそうになるほどに。
最初のコメントを投稿しよう!