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「広正」
永作が呼ぶと、他の隊員はそんな者は居たかと首を傾げていた。上官だけは名簿にあった名前として、かろうじて覚えてはいたようだ。
「そこのイタ公」
「はっ」
「広正とは大層な名だな」
上官は不躾に笑った。他の同期からも、いくらか笑い声が上がったようだった。俺は何が言いたいのか、ある程度察した。
「なあ、坂口フィリップス広正」
そこで永作意外の全員が爆笑した。緑の目、褐色の肌、「帝国軍人らしからぬ軽薄な」名前。彼らは4分の3、同じ血を共有する人間を笑っている。俺はただ、理由も分からずに頭を下げた。
「真っ当な帝国国民に生まれて来ることができなかったことを深く、反省しています」
永作の目は、妙に厳しかった。
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