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2.ライフ
永作は事ある毎に、俺の名について言及してきた。
「お前、その呼び方」
「もういい。慣れた」
どちらも同じ下士官、いつからか敬語は抜けていた。永作は俺が笑われ、上官の憂さ晴らしに、何かと理由を付けられては殴られたときには、自分のことのように怒った。
「同情か?」
1度だけ、俺の虫の居所が悪くて、睨みながら言った。
「違う」
永作は悲痛な叫びをあげた。隣の部屋から、壁を叩く音が永作を諌める。永作は抑えてもまだ俺より大きな声で続けた。
「お前がその姿で生まれたのが罪なら、俺達が日本国民として生まれたのが罰だ」
「そんなこと、言っていていいのか」
「母親はいつも言っていたさ」
軍法会議にかけるぞ、と冗談めかして言ってみた。冗談以上のものにはならなかった。消灯の時刻の後、永作は2段になった寝台の、上側で寝転びながら呟いた。
「お前の目」
黙ったまま聞いていると、永作は俺が寝たのかと思って何も言わなくなった。
「何だよ」
「緑だろう」
待ち構えていたかのような応対の早さだった。
「ああ」
「妹も同じだ」
「お前、名前は」
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