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同じ、カタカナ混じりかと。期待しかけて、そこにある自分の残酷な心に気がついた。永作は残念だったなとでも言うように、ため息混じりの愚痴をこぼした。
「改名した。させられたよ。立派な父親にな」
立派な日本人の父親に。受け継がれる血というものには、俺達の知り得ない運命の悪戯が大いに影響しているものと見えた。
後日の話だ。
「神風特攻隊のー隊員をー募集するー」
上官は募集とは名ばかりの、全員出動の自殺志願書を配り出した。そのことに気づいている人間は、上官が配る紙に手が伸びるのがそうでない人間よりも遅かった。
特攻の希望用紙が目の前に置かれている。
用を足して部屋に戻ってきた永作は、俺の前にある紙を一瞥して、上の寝台に寝転んだ。
希望
不希望
名( )
それだけ書かれた紙がある。
俺は日本帝国国民ではない。だから希望しない。そう書くのはひどく難しいことのように思えた。
「お前な」
永作はベッドの上から、蔑視を甘受する俺を咎めるときの声を出した。
「お前は今まで日本国民として扱われてこなかったんだぞ」
「ああ」
「分かってるのか」
永作は念を押す。俺は目の前の紙の処遇を決めかねる。機械で打ち出された、量産品の紙だ。
俺は丸を付けるべきところに丸を付けてペンを置く。書くことは書いた。俺は覚悟を決め、じっと眠ることにした。
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