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「ねえ、美奈子さんがそういう魅力があったから、だから誰かと一緒に家出したのかって噂が?」
「ああ。だけど町からいなくなった男なんていなかったからね……無責任にも程があるって耳に入れた人は怒ったもんだよ」
祖母はため息をつくと遠い目をして続けた。
当時を思い出しているのだろうか?
「それから五年もすると美奈子さんのお母さんが亡くなってね……旦那さんはそのまま家を出て行方知れず。家は他人の手に渡ってしまったよ。お母さん、半ば気狂いのようになっててね……あの様子では成仏なんてできないだろうってみんな言っていたよ」
祖母は深いため息をついたが、私には魂が抜け出るかのように感じられた。
「そして美奈子さんがいなくなって十年近く経ったころに町で恐ろしい事件が起きたんだよ」
「それは岡野義道の起こした事件?」
「ええ。あの神社と公園があった土地……その頃はここらで一番の地主の岡野が住んでたんだ。そこの旦那、岡野義道が突然発狂してね……家にいた家族と美奈子さんの家に新しく引っ越してきた家族を鉈や斧で皆殺しにして行方をくらましたんだよ」
「だからそれが……おとないさんでしょ?」
祖母は首をふり否定する。
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