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聖女と言うには残酷で残忍な力。悪魔の子だなんて嫌われた真っ黒な髪の毛。
誰も彼も、わたくしに近づかなかった。
血の繋がりのある家族にさえ馴染めず、腫れ物の様な扱いを受けた。
周囲から向けられるのはいつだって畏怖と嫌忌の目。
唯一、婚約者の彼だけはわたくしの髪を綺麗だと言ってくれた。
子供の頃の話だけれど彼にそう言われて、とても嬉しかった事を今でも鮮明に覚えている。
そんな彼の隣に、正々堂々と胸を張って立ちたかった。
でもやっぱり駄目だったわね。わたくしは相応しくなかったみたい。
貴方がわたくしに飽き飽きして嫌っているんだって、あの可愛らしいお嬢さんから聞いたわ。
本当はそんな事、言われなくても分かっていた。ただ現実を受け入れたくなくて、わたくしが目を逸らしてただけ。
結局、誰もわたくしを必要としないのね。
スカーレットは硬い地面に倒れこみ、どんよりと曇る空を見上げていた。
太ももは撃ち抜かれ背中は斬り付けられている。
致命傷だ、もう生きては帰れないだろう。
生温い鮮血が徐々に広がっていくのが分かり、死ぬのは意外とあっけないものだとスカーレットはニヒルに笑った。
そして薄れゆく意識の中で、ふと婚約者の顔が思い浮ぶ。
(最悪ね。婚約破棄をする前に死ぬなんて…あの人には気苦労ばかりかけてしまったみたいだわ。)
死ぬ時は心残りなんてないものだと思ったが、今その時になり色々な気持ちが溢れ出てきてしまう。
(一度だけでいいから好きって言われてみたかったわね…)
重たい瞼に逆らわず、そっとスカーレットは目を閉じた。
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