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王族専用の政務室ではルマン王国の第二王子、ウィレムが執務に追われていた。 片付ければ片付けるほどに積み重なる書類は中々手がつけられず、遂にはその紙の山も書机の軽い振動で雪崩のごとく崩れ落ちてしまう。 その酷い有り様にウィレムは深い溜息を一つ吐くと、重要書類の数々を丁寧に一枚一枚拾った。 近頃は彼方此方で小さい抗争や戦争が勃発しており、やれ城壁が崩れただの、やれ武器が足りない、物資補給してくれだのと、国防費は膨れるし、とにかく書類決済が間に合わないのである。 今もそうこうしているうちに部下が書類の束を運んできている。 そろそろ寝かしてくれなどとボヤきかけたが、誰も彼もが忙しく走り回る姿を見て、その文句を飲み込み頭をかき回した。 ウィレムは拾い集めた書類を別の机に置くと元の椅子に腰掛け、決済の続きをと、部下が先程持ってきた早期優先の紙を一枚取る。 その書類は今現在、長期戦となっている戦争についてのもので負傷者が多く看護婦も兵も足りないとの内容であった。 そこでウィレムはふと、出陣前に武運を祈ってやることも出来なかった彼女のことを思い出し首を傾げた。 彼女と言うのも、この戦争の前線で戦っている自分の婚約者、スカーレットのことである。 スカーレットは聖女でありながらも、サポートのみならず前衛にも長けた攻撃力も持ち、この大陸中に名を轟かせるほどに強い力と加護を持っている。 憶測でも冗談でもなく、並大抵のものでは彼女に触れることさえできないだろう。 そんな彼女が前線に出て戦っているのだ。長期戦に持ち込まれていること自体おかしい事であるとウィレムはまた首を傾げた。 (スカーレットでも苦戦したりするのか。) そう心の内で独りごちり、ウィレムは脳内に浮かんだ自分の不器用な婚約者の顔を思い出して目元を緩めた。 (きっといつものように、凱旋パレードにも顔を出す事もなく、こっそりと帰りを報告してくるに違いない。) ウィレムは、今回も必ず無傷で帰って来る、余計な心配は杞憂であると、スカーレットの勝利と無事を信じて疑わない。 そして直ぐに書類の方に目を向けて次々と書類に印鑑を押し捌いていった。
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