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「なんだガイン、俺はもうそろそろスカーレットを迎える準備をせねばならん。つまらん用事ならとく失せろ。」
ガインの方に目も向けず、書類決済をこなすウィレムだったが、突っ立ったまま中々口を開かないガインを不思議に思い、気怠げに視線を扉の方に向ける。
そしてウィレムはガインを青い瞳に写すと、軽く目を見開いた。
その顔は今まで見たことが無いほどに、悲愴感がありありと浮き出ているのが分かり、これでもかと固く結んだ口が、話すことを拒んでいるようであった。
即座に只ならぬ事が起こったのだと察してウィレムはガインの方に体をまっすぐ向けた。
「お、落ち着いて聞け…」
とてつもない悪い予感に、動悸が止まらず心臓が耳の横にあるのではないかというぐらい、ドクドクと脈うつのが分かった。
部屋には妙な緊張感が生まれ、ウィレムはゴクリと唾を飲み込む。
「ス、スカーレット嬢は…戦死した…」
耳を疑った。
ダンッ!!!
ウィレムは、力の限りで両手を書机に叩きつけると勢いよく立ち上がり、信じられないものを見るかのようにガインを見据えた。
「お、おまえは何を言っているんだ…?へんな冗談は、やめろ、やめてくれ…」
「……」
妙な沈黙に、気持ちの悪い汗が止まらない。
ウィレムは溜飲に耐えるため、片手で口元を覆った。
例えようも無い絶望感がウィレムの頭の天辺から足の爪先までを駆け巡り、心臓が握り潰されるかのような鋭い痛みが一点に走る。
ウィレムは胸元の服を握り締めながら、ゆらりゆらりとガインの目の前まで不安定な足を進ませた。
「お、おい、ウィレ…っグァッ!!」
意識せず、ウィレムはガインの胸倉を掴み上げて書棚に押し付けていた。
「スカーレット…スカーレット…スカーレット…」
気が狂ったかのように、繰り返し何度もスカーレットの名を呟くウィレムにガインが一喝した。
「…っおい!いい加減にしろ!!ウィレム!!」
その声に反応して一瞬、ウィレムの身体が揺れる。ガインはその隙を逃すまいと、胸倉を掴む手を即座にはたき落とし距離をとった。
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