とある伝承

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とある秋の夕暮れのことである。俺は親友のレイアスに呼び出され、いつもの酒場へと足を運んだ。彼はお気に入りの席につきいつものようにこちらへ手を振る。 「遅いぞロイ。」 待ち侘びたとでも言いたそうな彼に対して、 「すまない。ただあまり長居もしていられない。早速だが用件を聞かせてくれ。」 そう急かすように問いかける。すると早速とばかりに彼の目は爛々と輝きだした。 「なあ、ロイ。人が何の魔法にも頼らずに刀1本だけで竜巻を切れると思うか。」 親友のいつにも増して空想じみた話に、俺は一瞬怯んでしまった。 「そんな馬鹿げたことが出来るわけがないだろう。建物をなぎ倒し、木々を吹き飛ばす自然の脅威。人が刀1本でどうにかできるものか。」 ところが彼は一冊の小さな書記を取り出し、破れかけていた1ページを指差す。 「俺も完全に信じているわけじゃないさ。ただこの文章が気になったんだ。」 そこにはこう記されていた。 「剣の道を極めし孤高の剣士。故郷を襲いし大竜巻と相討つ。たちまち青空が顔を出したが、剣士の姿はなく亡骸も見つからず。彼の剣士は風となったのだ。」 確かにそのようにも取れる文章ではあるが、こんなボロボロで擦り切れた書記に書かれていることが、果たして実在したのだろうか。 「確かに形として残されてはいるが、現実味がなさ過ぎる。誰かが考えた作り話じゃないのか。」 俺は率直にストレートに彼に感想を投げつけた。 「そうかなあ。実在していたら夢があって面白いなと思うんだけど。」 そう不貞腐れ気味な彼に対し、一つだけ気になった疑問をぶつける。 「話の真偽は置いておいて、一応その剣士の名前を聞かせてくれ。名はなんという。」 すると彼はすぐさまこう答えた。 「名はジン。漆黒の髪に長身の優男。極東の大業物を振るっていたらしい。」
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