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その日、社長は社長室から出て来ず、誰も近寄せなかった。いつも定時になると足早に帰る社長が、今日は帰らなかった。きっと、誰よりも遅く帰ったのだろう。
そして翌日から三日間、そして週末の休日を二日挟んだ計五日後に社長は現れた。いつもと変わらない髪型だった。恐らくこの間に全く同じものをオーダーメイドしたのだろう。でも私は知っているから、見るたびに笑いを堪えていた。
それから数ヶ月後、あの日に捨てたカツラに勇気をもらって、辞表を出した。湯沢さんみたいに思いをぶつけて辞めることはできなかったけれど、でも悔しかったから、最後におばちゃんにカツラの話をした。おばちゃんは話好きだから、明日一瞬で広まるだろう。そう考えると、心がワクワクして、私は笑顔で職場を去った。
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