かみひとつ

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と、パソコンに備品の在庫入力をしていたおばちゃんが手をとめ、私にひっそり教えてくれた。事務室には私たち二人しかいないのに、なぜかこそこそと小声だ。 「またなんで?」  影下がポンコツ社長ということは私も知っているし思ってもいるから、何となく湯沢さんが辞めたい理由も分かるのだけれど、コミュニケーション上、おばちゃんに返答する。 「どうやら、影下さんに言われたものを湯沢さんが先方に持っていった時にトラブルが起きたみたいでね。湯沢さんは、あらかじめ気づいていたから、影下さんに違うんじゃないかって確認したみたいなんだけど、上司に歯向かうとは何事か、って」 「はぁ……」 「で、湯沢さんもしぶしぶ持っていったら、案の定、先方に怒られたみたいで。それを影下さんに言ったら、『俺は言っていない、おまえの判断不足だ』って。理不尽よねぇ。そりゃ辞めたくなるよ」  と言うおばちゃんは、どこか他人事だ。まぁ、パートのおばちゃんにとったら責任もないし、他人事といえばその通りなのだが。 「湯沢さん大変ですね……」
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