死の淵の挙式

　少しだけ考えてから、私は彼に尋ねてみた。
　ここで、結婚式してもいい？
　彼は頷いた。母にも確認してみると、微笑んでくれた。
　だから私はこの場で、永遠の愛を誓うことに決めた。
「お母さん。私はね、彼に、今ここで、永遠の愛を誓うよ。お母さんとに誓うよ。お父さんにも誓うよ。彼にも誓うの」
　私は誓った。
　きっと母と彼に残された時間はそう長くない。これ以上誰かが欠けてしまう前に、終わらせなければならなかった。
　だから短く、確実に伝わるように誓った。
　彼にもなにか言ってもらおうとしたが、彼はすでに限界のようだった。無理してしゃべらなくていいよ、といって、私は彼に口づけした。
　それから私は母の手を取り、そして母の隣で横になった。まじかで見る母の顔には、もうほとんど血の気は残っていなかった。
　そして私は母の手を握ったまま、空いてる方の手を彼に差し出した。彼の表情は少しだけ和らいだ。彼は私の手を取り、それから私の隣に倒れるようにして横たわった。
　私たちはそのまま動かなくなった。二人がどういうつもりなのかはわからなかったけれど、私はこのままなにもかもが停止すればいい、と考えていた。
　二人の手が冷たくなっていくと、それぞれの命が失われていくのがわかった。
　誓った私たちも証人である母も、もうすぐ消えてしまう。
　なんて短い永遠だったんだろう。
　ぼんやり見上げている夜空から、小さな欠片が降ってきて、私の胸元に落ちた。それは桜の花びらだった。