死の淵の挙式

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 永遠の愛。  言葉にするにはあまりに軽く、誓うには重すぎて、浸るにはちょうどいいぬるさ。  ほんの数時間前まで、それくらいの甘いポエムで永遠の愛を語ることができていた。  けれど私は壮絶な覚悟で、永遠の愛を、これから誓わなくてはならない。迫られて、慌てて。  この場に神はいないから、神には誓えない。だから今から死にゆく母の前で誓う。すぐに後を追うであろう私たちが誓う。  相手は三年間付き合ってきた恋人。なんてことのない平凡な人。少し臆病で寡黙だけれど、本当に大切なものを守るためなら体をはれる人。  彼がそんな誠実な人だからこそ私は今ここに生きている。彼の重症は私をかばってくれたからこそ。彼はシャツの上にまで血のにじんだ腹部を押さえ、額に油汗を流しながらも、黙って微笑んでいる。けれど時々苦しそうなうめき声をあげるし、その笑みはやっぱりぎこちない。私がうかがうと、低く穏やかな声で、大丈夫だよ、と応じてくれる。  そんな私たちを、母が見守ってくれている。湿った土 の上に横たわって、苦悶の表情を浮かべながらも、必死に痛みをこらえて私たちを見据えている。か細いのに、なぜか逞しかった母の右足は見事に潰れてしまっている。きっとそこから大量の血が失われたのだろう、母の顔は見たことないほどに青白くなっていた。  父の方は、どこにいるのかさえわからない。はじき出された衝撃で、崖の下へ飛ばされていったのを母が見ていたらしい。  私は他のみんなと比べて傷が浅い。全身擦り傷だらけで、ひょっとしたら肋骨あたりが折れているかもしれないけれど、命に別状はなさそう。けれど、みんなが死んでしまった後、私も後を追うつもりだ。  二人は私に生きろ、という。けれど、一度に家族と婚約者を一気にすべて失った状態で、いつになるかもわからない助けを待つ、なんてことは私には不可能だと思った。 幸せの絶頂からどん底への落差に耐えられそうになかった。
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