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「じゃ、なんで好きなの?」
「おいしそうだから!」
しかし、〝好き〟であるその理由を重ねて尋ねると、いつものながらになんだかおかしなことを弾んだ声で言い出した。
「大好きで、おいしそうだとどうしたい?」
「もちろん食べたい!」
そして、さらなる質問には堪らず口から涎を垂らし、思わず舌なめずりなんかまでしている。
「ハァ……だからだよ。俺だって、まだ食い殺されたくなんかないんだよお……」
すでに食欲を抑えきれなくなっている彼女を前にして、俺は再び大きな溜息を吐くと、両手で頭を抱えて泣きそうな声で嘆く。
そうなのだ。一見、非の打ちどころのないように見える彼女にも一つだけ大きな問題があった……。
彼女には〝食人趣味〟があったのである!
それは、その……オトナな男女の営みをしている最中に、大事な部分も含めて何度となく喰われそうになっていい加減気がついた。
最初はそういう〝噛みつく〟性癖の持ち主なのかとも思ったがそうじゃない。甘噛みどころか充分、歯が食い込むくらいに強く噛みついて、出血するとその血をおいしそうにペロペロ舐めるのだ!
最早そこにベッドの上で愛をはぐくむ男女の関係性はなく、むしろ、巣の中でこれから喰い殺されようとしている草食動物と肉食獣の間柄である。
けしてイイ男でもない俺とつきあい始めたのも、最初からその欲望ゆえのことだったように今では思う。
「ま、そういうわけなんで、これでさよならだ。その〝ハムカツサンド・パン抜き〟は最後に俺のおごりだ。今度は食欲からじゃなく、純粋に好きな人のできることを祈ってるよ」
言うべきことは伝えたので、うっかり喰い殺される前にと俺は卓上の注文票を手に取って早々に席を立とうとする。
「待って! お願いだから別れるなんて言わないで! あたしにはあなたが必要なの!」
だが、彼女は俺のシャツの裾を鷲掴みにすると、涙目になって必死に俺を引き留めようとする。
「その〝必要〟ってのは、食料としてってことだろう?」
「そ、そんなこと……ない……わよ……」
いや、嘘だ! 振り返りざまにした今の俺の質問に、彼女は目を逸らして明らかに本心を偽ろうとしている。
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